りんりんの運命の出会い日記
その三

りんりん

りんりんの運命の出会い日記
その三



会社に向かうある日、川崎駅で降りてアゼリアの下りエスカレーターで見た光景に私は愕然とした。
白い杖を持った女子が、上りエレベーターの上りきったところで、まさに下ろうとしていたのだ。

私より近くにいたおばさん、いや私より年齢が上の人であろうから、大おばさんとするが、
大おばさんは、顔をしかめて「危ない」というようなことを言っているのであろう。
でも、行動が伴わないのだ。私は自分の脚腰のことを考えず脱兎のごとく、(術後だったのでかなり痛かった)、
彼女を後ろから抱きかかえるようにして止め、「そこは上りエスカレーターよ!」と、危機一髪、彼女がまさに一歩踏み込もうとしていたところを抑えた。
「アゼリアに行きたいの?下りは左のエスカレーターだけど。」「はい、『てんや』に行きたいんです。」
「『てんや』って…てんぷら屋さんの?」「はい。」
はて…この小おばさん、私は、「てんや」という名前は知っているが、食べたことがない、お店に入ったことがないのだ。
「どこにあるかわかる?行ったことがある?」「確かここから2つ目の角を左に曲がったところだったと…」
たまたまその日に限って、会社に行く13:00まで、たっぷり時間があった。袖触れ合うも多少の縁。
こうなったら、とことんおつきあいしようではないか。
「私、目の悪い人のお供をした事がないの。どうしたら歩きやすいかしら?」
「腕を組ませても貰っていいですか?」「もちろん、どうぞ。」
ところが彼女が言うところは雑貨系が多いエリア。「こっちではないみたいよ。そこのお店の人に聞いてみましょう。」
近くのお店の前にいた店員さんに「てんや」の場所を聞いてみると、「あ、もう一本奥ですね。」と教えてくれた。
「あ。間違えて覚えていたみたいです。」と盲目の女子は恥ずかしげにいう。「たくさんのお店があるからね〜。」
と言いながらも、一人で出かけていく勇気は、とても私が想像する範囲を超えている。ほとんど自分の記憶が全て。
行きていくために、私たちには想像できない特殊な能力があるのだろう。
「あ、あったわ!」と彼女をお店の前まで連れて行き、「てんや」の店員さんに、訳を話し、面倒を見てくれるようにお願いしてお店を後にした。
彼女の満足のいくランチタイムを願いながら。

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