影のような人
川崎の家に居候してから、故郷に帰省した時のことです。同級生と再会しました。
彼は中学生の頃、同じ陸上部の部員だった友達です。現在は結婚していて、子供もいます。
夜に食事をして、カラオケに行きました。それだけの何てことのない時間を過して、色々なことを感じたのです。
思えば、中学生の頃は言われたくないことばかりをつついてくる嫌な奴でした。
「お前は自分だけが苦しんでるみたいに思ってる。」
「何やってんだよ、この早とちり。」
そんなことばかり言われていて、厄介だと思ったことが多いのです。
中学校を卒業して、僕は合格した高校を中退したのですが、その後にバンドを組んでライブをやりました。そのときに彼はライブを見に来てくれて、その後にファミレスで食事をしたときの会話もよく覚えています。
「お前のそういうところをもっと早く気づいてやれば良かったな・・・。」
彼は僕の話を真剣に聞きながら、そんなことを呟きました。そして、
「吉明は俺とちょっと似てると思う。」
なんてことを言うので、見た目も好みも全く違う友達とそんな会話をしている光景を端から見ればとても滑稽だと思うのです。
でも僕の中では、この友人と過した記憶が今でもざわつきます。
社会に出てから、僕は上司や先輩から思いこみの激しい癖や考え方が先走る性格をよく指摘されるようになりました。そのたびに、過去に与えられた彼からの苦言が何よりもリンクするのです。
中学生の頃、彼は僕の本質に気づいて本当のことを言っていたのです。本当のことを言われるから嫌だったし厄介に感じたのだと気づきました。
だけどそれは必要な傷です。
人は本当のことを悟られると何かと怒る生き物です。頭が成長するほど、どうしてもねじ曲がってしまいます。
だからこそ「素直になる」という大きな試練と誰もが闘わなければいけないのです。
彼はそれを教えてくれた・・・というより、お陰様でそのことに気づくことが出来ました。
そして思うのです・・・
「こいつ、いつも俺の影になってくれたな。」
彼はそのライブの日、高校の授業を抜け出して来てくれました。世の中的にはただの不良ですが、僕にとっては一生の宝物です。
再開した日の帰り、彼は乗せてくれている車の中で、生まれてくる自分の子供のことを話していました。
「父親になったことがないから、自分の子供との接し方とかよく分からない・・・。」
いつも他人の影になってばかりだった奴が、自分のことで悩んでいます。
嬉しくて、嬉しくて、彼の幸せを願う度に涙が止まりません。
川崎の家に帰る新幹線の窓が、とても素敵な思い出を上映してくれました。